さよなら妖精たち(FAREWELL FAIRIES)


  Autumn Beach

さよなら妖精たち、ぼくは鯖缶をあける、ぼくの父の生れる三年前(でも所はちがう)

鯖缶のにごった煮汁が、ぼくの鼻腔をくすぐる、欠けたガラスコップに一升瓶傾けて、

五燭を消した三畳間に、仲秋の欠け月が射しこむ、

桜のころは土の匂い、いや、街ぢうを走り回った肥買いの馬車たち

憂さ晴らし、

円い食台も今はない、

いづれ懺悔して、僧侶に頭を丸めて貰うと思う

いづれにせよ世の中は変るだろう

私は大砲になるだろう

鉄兜にはなるだろう

と、欠けをよけてコップをあおり鯖缶を一口で食すと

明日あたり下痢の便所で油汗だろう

そのとき、落とし紙にのって落下していく君(妖精)を見るだろう


  恋しい人よ

Autumn Beach

私は砂のように洗れていく

流木のように岸にたたきつけられ、砂に埋もれていく

腰しかけて待つ岩もなく

長い赤松林も人の所有(もの)になった

依然(じりじりと)照りつける太陽に

オータムビーチは水をかける

白い骨は緑の柳

私の卵はもみがらの中


  Dinner

恋しい人よ

おまへの顔はうつくしい

腕をからませて

スプウン片手に

踊ったあの日がなつかしい

サラダの味がなつかしい


  エビ

Dinner

夕餉

晩さん

一つのお皿

白く磨きあげられたそのプールサイドで

私はおまへと話をしていた

夏の日に相応しくない話を

一つのお皿

スープを食べ

その次はパンをのせ

カリカリに焼いたステーキをのせ

パンでソースをふきとり

そのプールサイドで

私たちは立ちあがり

ブロッコリーの林へと姿を消した

夕餉のおわりに

ナイフやフォークは私たちの話をくりかえす


  さよなら妖精たち

エビの傍らでおまへは眠る

トマトのやうに

私はエビではない

腰は曲っているが

長い二本の髭はあるが

かたい甲をきてうまく泳げるが

私はエビではない

しかし、ね

エビの傍らでおまへは眠る

トマトのやうに